昔話をしよう。
この広大な砂漠がまだ未開の地だった頃──国としての形もなく、オアシスに沿って集落が点在しているに過ぎなかった頃のことだ。
その頃は物資は乏しく、集落同士で争いが絶えず、また北の大陸からの侵略もあり混沌としていた。
そんな時代に、どこからか、鳥の翼を持つ一族が現れた。
彼らは戦闘民族だった。
宙を舞って相手を翻弄し、傷ついて流れる血は変質して強固な鎧となった。
そのため、戦いにおいて優位だったという。
一族は集落をまとめ上げ、北からの侵略を追い返し、砂漠に秩序をもたらした。
人々の支持により国を築いて王となり、それ以降、平和な時代が続くこととなる。
長い年月を経て、その血は徐々に薄まっていった。
鳥人と呼ばれた翼も失い、今や見た目には我々と変わらないという。
実際に血の鎧や背中の翼を見たという話は聞かない。
どこまでが真実かは分からないが──ただ、そう言い伝えられている。
今、砂漠には栄えてきた三つの国があり、互いに同盟を結んでいる。
賢たる頭脳を指す双頭の鷹、狙ったものを逃さない鉤爪の刃、そして自由を表す鳥の翼──それが、それぞれの国のシンボルだ。
かつて鳥人が王となったという、その国の名はジハラータ。
自由の翼を掲げた王の一族は、鳥人の血を引く末裔として、今もなお国民から慕われている。